うさぎと鯉と私と好きなもの

趣味の色々の記録場所。

君と見た長い夢の中 醒めるな 繋がったまま

いよいよカウントダウンを迎えているのでそろそろまとまらない話をしようと思う。
悲しくたって悔しくたって未来にちょっと夢を見ていた。
夢は夢ではないし、現実でもあるのだけど。

十年以上前の話になる。

物心ついたときには5位が定位置のチームだった。
1、9、10、7あたりが主力だったころだったろうか。
誰かが怪我で常にかけているようなチームだった。
18が先発をしたり、抑えをしたり、15が孤軍奮闘したり、私が幼い頃覚えているのはそんなチームだった。
下手くそなルーキーが入ってきた。
当たり前のようにサードでトンネルをして、ぽろぽろこぼして、失策数はチームでトップを争うような人だった。
サードに飛んでしまったならしょうがない、ヒットだ。
幼心にそう考えていたことを覚えている。

FAを取得した主力は当たり前にようにいなくなっているチームだった。
33は巨人へ、10はなんとか宣言残留の道を模索してくれてはいたけれど(+100万でいいから前例にしてほしいと球団に頼んでいたのを突っぱねられた)宣言した後の選択肢は出ていくしか当時はなかった。
余談にはなるが、初めて球団が宣言残留を認めたのはそれから数年後。15が権利を手に入れた時になる。
連続して4番を失ったチームの次の4番として選ばれたのは25だった。
応援歌にもある「空を打ち抜く大アーチ」
当たれば飛ぶよな。絶対的、と呼べるほどの選手ではなかったような気がする。
でも、他の誰が4番になるか、と言われてもピンとは来ない。
あの時、確かに彼しかいなかったんだろうと思う。
まだまだ力が足りていない、25がチームの柱となった。
決して強くはない時代だった。
球場はガラガラで、順位も上がらなくて、力を付けた主力は出て行って、怪我をして。
ベースボールドッグのミッキーだけが楽しみだったような時もあった。

そして、彼もいなくなった。

エースと4番を同時に失ったあの時、彼は「カープが好きだ」と言った。
優勝できるチームに行きたいや評価が知りたいではなく、「チームが好き」と言ったその言葉を覚えているファンは多いだろう。
だったら、なんで出て行くんだ。なんで泣くんだ。
【裏切者】
愛情の反対は憎しみなんだと思う。みんな好きだったんだと思う。
下手くそだけど憎めない、25のことが。

きっとずっと最後まで敵なんだろうなと思っていた25に妙な縁を感じたのは2013年のCS。
甲子園が真っ赤に染まったと驚かれたあの時、二試合目の最後のバッターは奇しくも彼だった。
初めてCSに出たその時に対戦したのが阪神で、最後のバッターが25。
彼は翌年、CSを2位から勝ち抜いて出場した日本シリーズには不在だった。
兄貴分の金本とは違い、阪神時代にリーグ優勝も無い。
持ってない人だな、と思っていたその年の秋のことだ。
自由契約となってチームを離れることが決まった彼の、次の所属先は『広島東洋カープ』。某どの面下げて帰ってきたんですか会ではないが、なぜ、と。
素直に受け入れられるほど心広くもなく、複雑なまま入団会見が開かれた。

負けたな、と思った。
最近の成績はパッとしない。
それでも安い年俸で過去に結果を残した、下手な新人よりも期待できるバッターが手に入ったと思えばいいか。そう思った。
だって、赤は似合うから。
背番号は、28。ずっと25だったことを思うと馴染みのない、若干の違和感を感じる番号。
それ以外は、ない。
赤いユニフォームだって見慣れている。赤い帽子だってよく見ていた。
良く知っている彼がそこにいた。
応援歌はどうするんだろうかと思っていた。
記憶にある中では戻ってきた選手はいない。
移籍してきたときに曲をそのまま使ったたくろーの例はあるけど(そういえば彼も25だった)、出戻りはない。
さて、どうなるんだと始まったオープン戦。聞こえてきたフレーズはとても耳になじみのあるもの。
今でも一番スタンドから声がする、あの応援歌。
球場に通いだしても最近のスタメンの歌詞はなかなか覚えられない私でも、完全に空で歌える応援歌。
ちらほら見える、赤い縦縞の25のユニフォーム。
そのユニフォームを脱いだ彼にどれだけのブーイングを浴びせたかみんな覚えているのか。
それでもずっと、そのユニフォームを持っているのか。
可愛さ余って憎さ百倍とはこのことか。
レプリカユニフォームは分かりやすいファンの意思だと思う。
なんだかんだで、みんな好きで仕方がなかったのだ。

誰よりも楽しそうで、誰よりも必死で、誰よりも騒いで。少年のような人だ。
積み上げたものぶっ壊して、身につけたもの取っ払って、とめどない血と汗で乾いた脳を潤せ
登場曲の全力少年は、そのまんまの姿なんだと思う。
全力で二十年を駆け抜けていって、後輩のためにその場所を空けていった、25の姿だ。

野球少年が見ていたプロ野球選手の夢がもうすぐ終わる。
私たちが一緒に見ていた夢が終わる。
来年からは、他球団にだって25はいない。
誰よりもベンチではしゃいでいた最年長の姿は無い。
どれだけ探したってもう見つからないし、グラウンドを駆け回る姿を見ることは二度とない。
また一人、ヒーローが去る。
永遠が無いことくらいわかっているけど、永遠であってほしかった。
これが夢であればよかった。そしたらまた来年彼と会えたのに。

最後に一緒に良い夢を見させてもらった。
まだ頂を目指す夢は続いているけど、この数年はずっと良い夢の中にいられた。
まだ掴んでいない頂を掴んで、有終の美にしてほしい。
そうやって、最後まで幸せな夢を見ていたい。